相続や贈与のことで、何か対策をしている。あるいは、していたはず。数年前に決めた、専門家に聞いた、親のやり方をそのまま引き継いだ。——それで、なんとなく安心している。
でも、その「安心」の中身を、最後に確かめたのは、いつでしょうか。
この記事は、税金に詳しくなるためのものではありません。むしろ逆で、詳しくならなくてもいいから、「知らないうちに、古い前提のまま家族のお金を決めてしまわない」ための話です。
「一度決めたから大丈夫」と思っている、その対策
お金の対策には、「決めた」という区切りがあります。この方法でいこう、と決めた瞬間、私たちはひとまず安心して、その話を頭の隅に片づけます。それ自体は、自然なことです。毎日、税金のことばかり考えて暮らすわけにはいきません。
ただ、そこには小さな落とし穴があります。「決めた」時点で、私たちの理解も、いっしょに止まる、ということです。決めたときは、たしかに正しかった。でも、その「正しさ」は、決めた時点の制度を前提にしています。制度のほうが動いてしまえば、こちらの前提だけが、そっと取り残されていくのです。
その「大丈夫」は、“時間で古くなる”タイプかもしれない
「うちは大丈夫」と思うとき、その根拠は、たいてい次のどれかです。一度、自分で調べたから。数年前に、専門家に聞いたから。親が昔から、そうやってきたから。
どれも、いいかげんな根拠ではありません。むしろ、その時点ではきちんと正しかったからこそ、安心してよりどころにしてきたはずです。
けれど、税制は変わります。そして厄介なのは、変わったことが、向こうから知らせに来てはくれない、ということです。「正しかった」と「今も正しい」は、同じではない。あなたの根拠が、“時間が経っても変わらない事実”なのか、それとも“その時点の制度に基づく判断”なのか——ここを一度、区別してみる価値があります。(すべての対策が古くなる、という話ではありません。ただ、古くなり得るものが混じっている、ということです。)
覚えている「数字」は同じでも、その周りのルールは変わる
たとえば、こんな場面です。
ずっと前に、親からこう言われた。「毎年110万円までなら、贈与税はかからないって聞いたよ」。だから、それを信じて、毎年少しずつ、子や孫へ贈与を続けている。——よくある、まじめな備えです。
ここで覚えているのは、「110万円」という数字です。でも、それは“贈与税”について覚えている数字——毎年一定額までの贈与になら、贈与税がかからない、という話です。一方で、その贈与が、将来“相続税”を考えるときにどう扱われるかは、それとは別の論点です。同じ「110万円」でも、贈与税の場面と、相続税の場面とでは、話がつながっていない。でも、記憶に残っているのは数字だけで、その数字が“どの場面の話だったか”までは、たいてい一緒には覚えていません。
そして、まさにその相続税の側の扱いが、近年見直されました。具体的には、相続の前にした暦年課税の贈与を、相続税を計算するときに加算する対象期間が、これまでの3年以内から7年以内へと延長されました。2024年1月1日以後の贈与から新しいルールの対象となり、相続が始まる時期に応じて、加算される期間は段階的に長くなります。贈与税の「110万円」とは別に、相続税の側の前提が変わった、ということです。
「110万円」という数字だけを頼りに何年も続けていると、数字は合っているのに、その周りの前提が古くなっている——そういうことが、起こり得るのです。
でも、「全部を勉強し続ける」必要はない
こう書くと、「じゃあ、毎年の税制改正を全部チェックしなければいけないの」と、気が重くなるかもしれません。でも、そうではありません。
税制の改正は、毎年たくさんあります。そのすべてを追いかけるのは、専門家でもなければ無理ですし、あなたがその役を一人で引き受ける必要もありません。大事なのは、全部を知ることではなく、“自分の家に関係するところ”だけを、古い前提のまま放置しないことです。
わが家で実際に使っている前提——贈与のやり方、相続の見通し、老後資金、住宅、保険や控除。まずは、自分たちに関係するところからで十分です。そこだけを、ときどき見直せばいい。
必要なのは、“わが家の前提”をときどき確認できる場所
だから、本当に必要なのは、税制改正を毎年ぜんぶ読むことではありません。「わが家が前提にしている制度に、変更はなかった?」と、ときどき確認できる場所を、ひとつ持っておくことです。
すべてを覚えておく必要も、常に気を張っている必要もありません。ふと思い出したときに、「あの前提、まだ大丈夫だったかな」と立ち寄れる。そういう場所があれば、古い前提のまま何年も走り続けてしまう、ということは、ずいぶん減ります。
古い前提のまま、家族のお金を決めない
このサイトが何度も立ち返る問いは、「夫が動かないなら、妻はどう自分を守るのか」です。税金の話でも、これは変わりません。
夫が細かい制度を追いかけてくれなくても、あなたが税の専門家になる必要はありません。必要なのは、たったひとつの習慣です。——「一度決めたら終わり、ではない」。お金にまつわる前提は、時間とともに古くなり得る。だから、ときどき“今もこの前提で合っているか”を確かめる。それだけを、頭の片隅に置いておく。
完璧に把握しようとしなくて、いいのです。むしろ、「自分は全部は分からない。でも、古くなっているかもしれない、とは思っておく」。その姿勢こそが、知らないうちに家族のお金を古い前提で決めてしまわないための、いちばん現実的な守りになります。
一度決めた対策は、決めた時点の正解でしかありません。制度は変わります。だから時々、立ち止まって確かめる。全部を追う必要はない。自分たちに関係するところだけ、古いまま放置しない。
知らないうちに、古い制度を前提に家族のお金を決めない。そのために必要なのは、全部を知ることではなく、「今もこの前提で合っている?」と、ときどき確かめることです。
この「税制改正」では、40〜50代の妻の家計・贈与・相続・老後資金に関係する変更を中心に取り上げます。制度は動きます。だからこの記事にも、基準となる日付を添えています。
