毎月、決まった額を、自分の老後のために積み立てている。将来の安心のために、コツコツ続けてきた。——その積み立てを、この先もずっと同じように続けられる。なんとなく、そう思っていないでしょうか。

でも、少しだけ想像してみてください。義親の介護が始まったとき、そのNISAの積み立ては、今と同じペースで続けられるでしょうか。

この記事は、NISAの始め方でも、どの商品を選ぶかでもありません。すでに積み立てているあなたが、義親の介護や相続が起きても、その積み立てを崩さずに続けられるかどうか——そこだけを、一緒に考える話です。

せっかく積み立ててきたNISA、そのお金は老後まで残せますか?

NISAを始めたとき、思い描いていたのは、自分の将来だったはずです。老後の生活を、少しでも安心なものにするため。誰かに削られるためのお金では、もちろんない。

けれど、義親の問題は、たいてい、あなたが見ていない方向から家計に入ってきます。そして、そのとき最初に揺らぐのは、「毎月コツコツ」という、いちばん崩れてほしくないリズムだったりします。

なぜそうなるのか。順番に見ていきます。

義親の介護で削られるのは、介護費だけではない

義親の介護というと、まず思い浮かぶのは、施設の費用や医療費でしょう。でも、実際に家計に触れてくるのは、そういう「介護費」と名前のついたものだけではありません。

最初は、様子を見に行くための新幹線代かもしれません。次は、帰省の回数が増えたぶんの交通費。そのうち、誰も住まなくなった実家の片付けに、思いがけないお金がかかる。そのたびに、「今回は、こっちで出しておこうか」と、あなたたち夫婦が立て替える。

一回一回は、「今回は仕方ない」と払える範囲に見えることもあります。問題は、金額の大きさよりも、その「今回だけ」が積み重なっていくことのほうにあります。何度か続くうちに、だんだん分からなくなってくるのです。——これは、本来なら義親のお金から出ることなのか。それとも、私たちが負担するお金なのか。義親にかかるお金と、自分たち夫婦の家計との境界が、はっきり決めた覚えもないまま、少しずつ溶けていく。(これは、義実家を直接調べた研究の話ではありません。お金の負担がどんなふうに曖昧になっていくか、という一般的な成り行きとして読んでください。必ずこうなる、という話でもありません。)

現金が足りなくなったとき、「NISAにあるじゃん」が起きる

そうやって、名前のつかない出費が積み重なっていくと、あるとき、手元の現金が心もとなくなります。

普通預金の残高を見て、少し不安になる。貯金は、そんなにたくさんは残っていない。——でも、そこで、ふと気づくのです。「そういえば、NISAに、あるじゃない」。

NISAで保有している商品は、必要になれば途中で売却することもできます。だからこそ、手元の現金が足りなくなったとき、「ここにあるお金を使えばいい」と考えやすい面もあります。売れること自体を、悪いものとして扱いたいわけではありません。

問題は、その先です。現金が足りないとき、NISAは真っ先の取り崩し候補になりやすい。「使っていいお金」に見えてしまう。そうして、自分の老後のために積み立ててきたお金が、義親の老後のための支出へと、静かに回り始める。取り崩してはいけない、という話ではありません。ただ、それが「気づいたら、そうなっていた」という形で起きていないか——ここが、この記事のいちばんの痛点です。

本当に守りたいのは、NISAではなく「積み立てを続けられる家計」

ここまで来ると、守るべきものの正体が、少し変わって見えてきます。

この記事が守りたいのは、NISAという口座そのものではありません。どの銘柄を持っているかでも、利回りが何%かでもない。ただ、それは「いくら現金を用意すればいいか」という数字の話でもありません。問いたいのは、「NISAを取り崩さなくても済むだけの現金が、何円あればいいか」ではないのです。義親側で足りないことが起きたとき、その不足を、当然のように自分たち夫婦の老後資産で埋める——そういう家計に、いつのまにかなっていないか。守りたいのは、そこです。守る対象を、「NISAという口座」から、「自分の老後資産を、義親側の穴埋め先にしない状態」へと移すこと。それが、この記事の考え方です。(念のため添えると、NISAは投資ですから値動きがあり、増えることも減ることもあります。ここでお話ししているのは、お金が必ず増える話でも、減らない保証の話でもなく、義親の問題で自分の資産形成そのものを途中でやめさせられない、という話です。)

「まだ平気な今」に決めておきたいのは、義親のお金の額ではなく、“どこから出すか”

そのために、今のうちに一つ、夫婦で確かめておきたいことがあります。

それは、義親がいくら持っているか、という金額ではありません。義親の預貯金や年金を把握すること自体は大切ですが、それはこの記事の本題ではない。ここで決めておきたいのは、“順番”です。義親に何かあったら、まず何のお金を使うのか。義親のお金で足りないとき、夫婦から出すなら、どこまでなのか。そして、その先で、自分たちの老後のための資産にまで手をつけるのか、つけないのか。——この順番を、まだ何も起きていない今なら、二人で落ち着いて話しておけます。もちろん、介護が始まってからでも見直せます。でも、そのときには目の前の対応に追われて、冷静に順番を決める余裕は、今よりずっと小さい。始まったら何もできない、という話ではありません。まだ平気な今だからこそ、選べる幅が広いのです。

夫が動かなくても、自分の老後資金を“義実家の予備費”にしない

このサイトが何度も立ち返る問いは、「夫が動かないなら、妻はどう自分を守るのか」です。お金の話でも、これは変わりません。

はじめに言っておきたいのは、これは「NISAを絶対に取り崩すな」という話ではない、ということです。本当に必要な場面なら、取り崩すという選択もあるでしょう。避けたいのは、最初から「何かあれば、私たちの資産から出せばいい」が当たり前の前提になり、自分の老後のためのお金が、いつのまにか“義実家の予備費”の位置に置かれてしまうことです。

そして、さっきの“順番”を、夫がすぐに一緒に決めてくれるとは限りません。それでも、妻の側から引ける線があります。夫婦でまだ合意できていなくても、少なくとも自分の中では、「自分の老後資産を、最初の穴埋め先にはしない」と決めておく。義親側で何か足りないことが起きても、真っ先に差し出すのは、そこではない——と、自分の順番だけは、先に決めておく。

完璧な家計設計はいりません。夫婦のルールが整わなくても、あなた自身の一本の線は、今日から持てます。それだけでも、いざというときに「NISAにあるじゃん」で反射的に手を伸ばす前に、一度立ち止まれるようになります。

守るべきなのは、NISAという口座ではありません。

守りたいのは、義親の老後が始まっても、自分の老後のための資産形成を続けられる状態です。

義実家のことで、あなたの時間や労力が削られるのと同じように、あなたの老後もまた、決めた覚えのないまま削られていくことがあります。しかも、お金の場合は、「まだ大丈夫」と思っているうちに、静かに進みます。だからこそ、まだ平気な今のうちに、自分の老後資産と、義実家のお金の間に、うっすらとでも一本の線を引いておく。それが、義実家に自分の老後まで差し出さないための、静かで確かな備えになります。